日本の原点シリーズ 7 土 (新建新聞社) 2014年6月発売 掲載記事

                                             これからの日本の土の家にむけて         遠野未来建築事務所 遠野未来 

 

 

  • ● 日本の土の家の可能性

  • ● コミュニティビルドと土建築の広がり

  • ● 日本の土の家の可能性

 

 土は人類最古の建築素材でありながら、現代最先端の素材である。

 今でも世界の人口の1/3は土の家に住んでいるといわれるように、土は世界中どこにでも手に入り、あらゆる形に加工できる。調湿、蓄熱性に富み、建築の構造にも仕上げにも使え、製造 廃棄エネルギーはあらゆる素材の中で最も小さく、リサイクルが可能。・・・現代建築の3要素である省エネ・健康・空間造形 すべてを満たす理想の素材といえる。ただし、土よって物性が異なる、雨に弱い、乾燥期間が必要・・・などの面で扱うのに経験が必要な素材でもある。建築素材として長い歴史を持つ土は近代建築の「鉄・ガラス・コンクリート」という近代建築の発展とともに過去のものとして扱われていたが、環境と省エネ意識が高まった1970年代以降、ヨーロッパの大学や研究所を中心に構法・材料・温熱などの研究や科学的な解明がなされ、世界各地で土の建築を復活させる運動が広まっていった。さらに21世紀に入って住宅の高気密・高断熱化が進む中、建物の過熱(オーバーヒート)を緩和させる、調湿・蓄熱性のある現代の省エネ素材としても再評価され、現在土は世界中の建築の中に様々な工法で使われるようになっている。

 

 一方、日本ではどうだろうか? 小舞による土壁の家は高温多湿な日本の風土に一番合っていることは間違いないが、早いサイクルの現代社会の中で長い工期とコスト高などにより着工件数は激減しており、現在は各県とも数%、年に数軒という地域もあると思われる。土壁の家は夏涼しく冬暖かいといわれるが、それは土の調湿性/蓄熱性を含めた家全体に対する人の体感によるもので、数値的な断熱性能は、熱伝道率0.69で断熱材の1/10程度と、数値上の断熱性能はなく、地域や住まい手のライフスタイル、冷暖房の使用状況によっては省エネにならない場合もある。そのような中、国交省は2020年に住宅のCO2排出量と消費エネルギーの削減を目指し平成25年度省エネ基準を義務化予定で、除外措置が得られない限り、その断熱性能が低く、開放的で伝統的な土壁の家はつくれないことになる。

 日本の風土と軒、縁側の中間領域、土間の蓄令熱、土壁の調湿と蓄熱を生かした夏を旨とする日本の伝統的住宅の心地よさは皆共通して感じているはずで、国が省エネ基準の数値によって1000年以上続く日本の伝統的な木造の家がつくれなくなるのは確かにおかしい。

それについては義務化開始までさらに議論を続ける必要があるが、今年(2014年)3月半ばに開かれた、「伝統的木造住宅と省エネルギー」というフォラムで伝統工法を実践する設計者と制度を策定する研究者の議論を聞いていて思ったのは単に伝統やこれまでのやり方を踏襲し、特例としての例外規定を目指すだけでは、日本では更に土の家は減るだろうということである。 新たな土の使い方や現代の構法を開拓し、住まい手にアピールしていかない限り、今後の展開は厳しい。東日本大震災以降エネルギーや環境問題に目が覚めた日本であるが、省エネ復興住宅として土の家が多数つくられたという話は聞かない。2020年までの義務化の準備期間を危機ではなく、逆に研究や事例によって日本の土の家を現代の省エネ性能を満たす未来の家として新たにアピールする機会ととらえたい。

 

 では今後の日本での土の家の可能性としてどのようなものがあるだろうか? 

近年温熱データや壁強度研究、あるいは西洋の影響を受けた表現・・・など多様化する土と左官の状況の中で、現時点で考えられることを私なりにあげてみると 

 

 1 伝統工法の継承・・・竹小舞+真壁土壁の現代的視点からの解明と発展  

 2 現代のパッシブ住宅の中で土を生かす・・・木摺下地片面土壁、土ブロック、版築、土間と大開口ガラスや断熱材と組み合わせ、土の蓄熱性を生かした現代のパッシブ住宅を目指す。  住宅の熱容量を増やす版築や土ブロックの活用。壁暖房、薪ストーブの炉壁など土壁と暖房の組み合せ

 3 装飾的・工芸的表現を極める・・・日本の左官技術を生かした現代の土壁の追求 

 4 構造・・・自立あるいは木軸と組み合わせた版築壁、土ブロック壁の可能性 

 5 コミュニティビルドの中心的素材としての活用・・・土を使ってみんなでつくる建築 

 6 現場の残土の活用 

 7 以上を組み合わせた新たな表現

 

 などが考えられる。

 海外に行っても日本の土と左官技術は世界最高峰と誰しも認めるところであり、世界各地で毎年土の国際会議やワークショップ・建築祭が行われ、土建築を広める運動は活発に行われている。世界と交流しながら、日本各地で今後更に様々な取り組みが行われることを期待したい。

 長野県八ヶ岳に筆者が前橋工科大、長野の工務店・アトリエDEFと共同で設計し、温熱データがとられている土壁の実験棟がある。土壁の室内が外気に比べ安定した温湿度を示すとともに、土壁とともにさらに熱容量を増やした土間と版築のある部屋はより一層安定した結果を示した。3年ほど前から断熱材と土壁を組み合わせた現代版土壁の家を標準仕様にし、建主にアピールするアトリエDEFでは、土壁にした場合工期が伸び、建設費が坪3万円上がったとしても約半数が土の家を選ぶという。実験棟で土壁の空気を体感し、直感的に選ぶ女性が多い。土壁を見たこともなく育った若い世代も増えているが、土の家のしっとりとした空気感は実際に体感しないとわからない。日本で土の家を、環境意識が高く自然指向の家づくりを目指す層にアピールする可能性はまだまだあると思われる。

 

●コミュニティビルドと土建築の広がり

 

 土を扱うことは地球環境全てを考えることである。自らを振り返っても、土を扱うようになって「土はどこにあるのか?」「どうやってできるのか?」 から始まり、「混ぜるわらは?」「小舞に使う竹や葦はどこからどうやって手に入れる?」「自分たちで集めるならいつ?」・・・と自然と地球環境のことを考えるようになり、地球の全存在がつながっていることを意識するようになった。筆者は土とこどもをテーマにコミュニティの中で建築をつくる機会が多いが、土は建築をつくるだけでなく、コミュニティをつくるためにも非常に有効で、地球環境とつながるだけでなく人と人をつなぐ力がある。 かつて家は村落共同体のなかでつくられ、特に土壁の下塗りとなる荒壁などは左官職人を中心に親類縁者、知人、隣人を集めて賑やかに祝祭的雰囲気の中で行われたであろう。いえづくりを他人任せにせず、できるところは自分たちで参加する。それは共同体や家づくりのあり方が変わってしまった現代でも可能である。自分たちが主体となって建設作業を行う「セルフビルド」や「ハーフビルド」。さらにその考えを進め、家を単に家族だけのための場にせず、家づくりの作業をきっかけに積極的に地域を超えた人たちが参加し、地域に開かれたコミュニティをつくっていくのが「コミュニティビルド」という考え方である。家づくりの方法や人とのつながりをシェアし、場が出来た後はそこが地域に開かれながら人が集まりイベントが行われ、情報発信の場になる。筆者が設計した神奈川県三浦市にある「みらいのいえ」(2010年)は、施主自らが荒壁の土をつくるところから始め荒壁、ストーブ後面の版築壁、土間、草屋根・・・と合計10回 延べ200人以上が参加して家づくりが行われ、岩手県葛巻町 森と風のがっこうの宿泊施設「エコキャビン」(2010年)では葦小舞・荒壁・葦断熱・・・など延べ300人以上の人たちが参加している。 多くは関係者、知人からの口コミ、そしてインターネットでの呼びかけによるもので、コアになる地域の人と全国から新たに集まった参加者という構図だが、その鍵となるのが大人もこどもも楽しく参加できる土という素材であり、全国にそのような家づくりや場作りをしたいという人たちがたくさんいることがわかる。そのような人のつながりが成功すれば、家づくりをきっかけにその場が地域に根付き、まちおこしやコミュニティビジネスにまで発展する可能性があり、どちらの例でもそれが実践されている。(三浦市 コミュニティビジネス みらいかない、森と風の学校 )。このような場づくりは今後の被災地の復興でも様々に展開が可能であろう。地域を超えた新たなコミュニティ、新たな人と人がつながり、今後日本に地域ごとに個性的な家や場ができてゆくことを願っている。

 

  哲学者の中沢新一氏が伊東豊雄氏との共著「建築の大転換」の中で、21世紀我々が目指すべき建築として「大地である自然と建築という人工物が敵対しない構造」、「完成物ではなく運動そのものが建築」というイメージをあげている。そして建築をつくるとき人間中心の視点ではなく太陽と地球の関係、生物と地球の関係まで考え、10万年、10数億年単位で考えるべきだと。人類がもし死滅したときに残るものはなにか?おそらく我々がつくる住まいよりそれが建つ地面や周囲にある木や草の方が長く残るだろう。そう考えると地球に元々存在し、そこに戻せ、製造エネルギーが最も小さい素材=土という素材の選択は必然とも思われ、数十万年という長いスパンの中で改めて日本における土の家を考えたい。世界遺産を目指す特例ではなく、身近に土の良さを知ることができる住まい。土の家がみんなの手に届くことを願って。

    Build the earth with craftsmanship

 

            with local earth, trees, and people

              Architects studio in Karuizawa Japan

     

        遠野未来 建築事務所

地域の土・木・人で 大地を建築する

軽井沢の建築設計事務所

 

 ■English TEXT   

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